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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)827号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人黒坂一男の上告趣意第一点について。

所論は憲法違反をいうけれども、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして物品税法一八条一項一号は、政府に申告しないで同号所定の物品を製造した者はこれを処罰する旨規定している。これ同条は、無申告で同号所定の物品を製造したということによって当然納税義務の不履行が伴うものとみて、課税物品の移出を待つまでもなく無申告製造の事実そのものを捉えて処罰しようとの法意に外ならない。(昭和二六年(あ)第五九二号昭和三一年三月二〇日第三小法廷判決参照)。故に罰金額につき同条二項を適用して情状により五〇万円を超える金額を科するにあたっても、無申告で製造した物品の価格又は数量を基準として物品税相当額を算定すれば足り、進んでその物品が製造場より移出せられたこと及びその際における価格又は数量を確定しなければならないというものではない。しかしながら、本件第一審判決判示第一の事実(ズルチンの無申告製造)に適用せられた物品税法一七条ノ三〔昭和二三年七月七日法律一〇七号(即日施行)をもって追加・昭和二四年一二月二七日法律二八六号(昭和二五年一月一日施行)をもって削除〕は、一項において無申告製造犯を一〇万円以下の罰金に処する旨規定し、二項において「前項ノ罪ヲ犯シタル者ハ情状ニ因リ五年以下ノ懲役若ハ……製造場ヨリ移出シタル……物品ニ対スル物品税十倍ニ相当スル金額カ十万円ヲ超ユルトキハ十万円ヲ超エ其ノ物品税十倍以下ニ相当スル罰金ニ処シ又ハ懲役及罰金ヲ併科スルコトヲ得」と規定しているのであるから、右判示第一の事実につき同条を適用して一〇万円を超える罰金を科するには、無申告で製造した物品を製造場より移出したこと及びその数量を確定しもって物品税一〇倍に相当する金額が一〇万円を超えること及びその物品税一〇倍の金額が幾何かを算定しその範囲内において罰金額を量定しなければならない筋合である。しかしながらこれらの事実は無申告製造犯の構成要件ではなく従って必ずしもこれを判文に明示しなければならないものではないのであって記録上これを認めえられれば足るものと解すべきところ、被告人高宮隆平の大蔵事務官に対する各質問顛末書及び同人の検察官に対する第二回供述調書の各記載によれば、右製造にかかる物品は総量をその都度出荷して移出したことが認められ、しかも前示金額の範囲内において罰金一〇〇万円が量定せられているのであるから、右第一審判決は正当であり、これを維持した原判決には所論の違法があるとはいえない。

同第二点について。

所論は事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本村善太郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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